蒸しかえる暑さの中で意識は朦朧とする。
熱射病にならない保証なんてどこにもない。
軽く水分を口に含む。
すぐには呑み込まず口の中で水分を留めて吐き出す。
冷房の効いた場所からはもうずいぶん歩いた。
引き返すか。
いやもう俺に後退と言う選択肢はない。
引き返す体力はとうに使ってしまっていた。
這うようにして給水所にたどりついた頃だった。
そこには水分の他に熱中症予防のためか「塩飴」が置いてあった。
考えるより先に俺はもう飴を手に握りしめていた。
「これであと少しは戦える。」
そう思った矢先誰かが俺をよんだ。
「司令官(コマンダンテ)!!!」
振り返った瞬間、口の中の飴を呑み込んでしまった。
普段なら別にどうでもないこと。
しかしこの時ばかりは勝手が違っていた。
「気管かっ!!!」
食道ではなく気管に飴が吸い込まれてしまったのだ!!!!
声が出ない。
俺を読んだ声は幻だったのか辺りに俺を呼ぶものの姿はない。
胸が急に熱くなり出し、全身血の気が引いてきた。
何秒だったか何分だったか俺は悶え狂った。
呼吸もできない。
飴が吐き出せない。
「ああ俺は死ぬかもしれない。」
自分の死への感情は意外と冷静なものだった。
俺は自由のために戦うゲリラ戦士だ。
大国の搾取と理不尽な権力に徹底的に抵抗してきた。
その戦いももうすぐ終わるのか!?
家族の顔が頭をよぎる。
「飴なんて食べるからじゃないっ!!」
死してなお俺は妻に怒られるのか。
英雄として死ねないのか!?
急に足の裏から大地のエネルギーが上昇してくるのを感じた。
その力が拳に宿り俺は冷静にしかし大胆に右拳でみぞおちを殴打した。
俺の顔は十分青白く正常な人間のそれとは程遠かった。
ようやく飴が口から飛び出て来た。
俺を苦しめた直径2cm程の弾丸を俺は踏みつけた。
「もう二度と飴など食うものかっ!!!」
死の淵から生還した戦士は自分で痛めたみぞおちを抑えながら空を見上げた。
「おじいちゃんよく噛んで食べようね。」
空はどこまでも青く、
俺の胸だけしばらく赤く腫れていた。
~あるゲリラ戦士の手記より~
0 件のコメント:
コメントを投稿