2009年10月14日水曜日

かなぶん

以前に妻と沖縄に行った時の話である。

のんびりしたロケーションが好きな僕らは、ちゅらさんの舞台にもなった小浜島ってところに宿をとり、過ごすことにした。

原付で2,3時間もあれば一周出来るくらいの島なので、二日目からは本当にやることがなかった。

気持ちいい風が肌を優しく撫でる夕暮れ時、妻が一言。





「そうだ。」 「瞑想しよう。」




「は?」



雑念の塊のこの俺が瞑想なんて…



ヨガの先生である妻を横目で見ると、もう完全に瞑想状態だ。



こちらに参加の意思があろうがなかろうが、そんなことは関係ない。



僕は仕方なくあぐらをかいて目を閉じた。



悲しい位集中出来ない。



しょーもない考えばっかり頭に浮かんでくる。



だんだん考えるのに疲れてくる。



皮膚の感覚が強くなってくる。



風を皮膚が感じる。



自分の体を意識するようになってきた。



かゆい



汗ばんでる



耳たぶが風でプルプル動く



耳も冴えてきた



自分の呼吸が聞こえる



妻の呼吸も聞こえる



空気の音も聞こえる



音が大きくなる







ぶぅぃいん







「痛っ!!」








虫が僕の顔にぶつかった。





「とまった」ではなく「ぶつかって」きた。





しかもけっこうな勢いで。



妻に言うべきか。



いや、彼女はこの崇高な時間をきっと邪魔されたくないはずだ。



そうだ。邪魔したらギッタンギッタンにされる。






「よし。妻に止められるまで俺我慢する!!」





そして、僕の全神経は右頬に集中する





「ああ、虫さんくすぐったいよ」





「鼻を登ったり降りたりしないでよ」





「鼻の穴にははいらないでね❤」





顔中がかゆい



彼の六本の足が僕の顔を刺激する。



だんだん自分が自分の顔を歩いている気になってきた。



虫に集中することで虫になれるのか。



虫君の行きたいところも僕が決めれそうな、そんな気さえして来たとき、






「ああ~気持ちよかったぁ!!」




妻が目を開けた!!



僕はゆっくり目を閉じたまま妻のほうに向いた。



妻が言った。





「ユージ君!!」「かなぶん!!」





ああ、君はかなぶんだったんだね。



ゴキブリじゃなくて本当によかったヨ。



後々、妻に事情を話したら、「言ってよ」って怒られたけど、言えなかったヨ。



妻は寝るまでずっと笑ってたヨ。



僕もなんだか照れくさかったけど笑ったヨ。




瞑想は自分を空にして対象そのものになること



かなぶん君、僕にこんな素敵な体験をさせてくれてありがとう!



また逢うことがあったら、その時は優しく僕にとまってね❤


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